民俗芸能の音楽を取り上げることの教育的意義

 我が国の音楽教育、特に義務教育の現状では、自国の音楽が長期間かけて体系的に指導される西洋音楽に比して、極めて軽い扱いになっており、積み重ねも殆どない状態で、いきなり高度な伝統音楽を鑑賞させるといった指導が多いことから、日本の音楽は難しいもの、近寄り難きもの、つまらないものといった印象を子どもに与えてきたように思われる。
しかし、日本の音楽も指導法によっては、決して興味・関心の持てないものではないわらべう歌から出発して、民謡や民俗芸能の音楽、更に芸術的な伝統音楽へと見通しを持った発展段階を考え、それぞれの指導過程において、子どもたちが潜在的に 継承している日本人の音楽に対する体質や感性を大切にし、彼等の興味・関心や演奏 技能を考慮した指導の積み重ねをしていけば、西洋音楽の指導と対等以上の成果が期 待できるはずである。このように考えて、約10数年かけて拙い実践を積み重ねてきた経験がある。
こうした教育実践の中で取り上げた地域の民俗芸能の音楽には、日本人とし て受け継いできた音楽の血の流れのようなものがあり、興味・関心以前に見本人の体質として、こういった音楽を求めるエネルギーが潜在的に受け継がれているものと考 えられる。したがって体を通して自然に体得していける日本の、とりわけ郷土の民俗 芸能の音楽は、素材さえ選べば、子どもにとって生き生きと我を忘れて没頭できる魅力的な世界を作り出すことができるものであり、理屈抜きに体ごとぶつかっていける 日本の太鼓の演奏が、今日的な課題である生徒指導にとっても極めて有効なことが理解できるわけである。
 同時に基礎・基本を重視し、創造的な能力の育成をを目指す指導要領の趣旨からも 児童・生徒の発達段階に即し。体を通して自然に日本の音楽の基礎的な技能が身につけられる民俗芸能(音楽)の指導が大きな意味を持ってくるわけである。
 見通しを持った日本の音楽の指導計画の中で、郷土の民俗芸能を意図的・ 計画的に取り上げたことの効果は大きく、この民俗芸能の音楽が音楽の授業や学校行事に欠かせないほどの位置を占めるようになった。
地域に伝わる郷土の民俗芸能の音楽は、もともと民間レベルの技術で、短時間に習得できるものが多く、素材を選べば授業の少ない時間ででも扱えること、それでいて 地域の生活に根ざした素朴な美しさ、味わいといったものを持っていること、更に、過去の歴史的経緯から、伝統音楽との係わりが極めて強いものである。
日本各地にの残されている民俗芸能の音楽の殆どが、日本の伝統音楽が完成さ れて出揃った江戸時代中期以降に伝えられたものであることから、民俗芸能の音楽には日本音楽独特のリズムやメロディーの表現が継承されており、子どもたちが理屈抜きに、自然に日本の音楽の世界に入っていけるものがあるということである。
 このように地域の民俗芸能を音楽教育に取り上げることの意義は極めて大きなもの であり、人間として、日本人として、いかに生きるべきかを考えれば考えるほど音楽 教育の原点が日本の音楽、とりわけ郷土のわらべうたや民俗芸能の音楽の指導にあように思えてくるわけである。 我を忘れて、生き生きと篠笛を吹きまくったり、エネルギッシュに郷土の太鼓を打 ちまくる子どもの姿を見るにつけても、今一度、音楽教育のあるべき姿を問い直す必要があるように思われるのである。

最初にもどる